おじいちゃんもギャルも子供も。くるひとを狭めないクリエイティブ

重いランドセルを下ろして駆け出すこども、キッチンカーの前でお昼ごはんを心待ちにするひと、電話を片手に「先日はありがとうございました!」と挨拶するひと。

 

渋谷キャストの広場でベンチに腰掛けると、さまざまなひとの顔がわかります。

 

思わず腰掛けたり、寄り道したくなる広場。
そんな場づくりに、ブランディングはどんな役割をしているのでしょうか。

 

今回はインターンのなはちゃんが、プロジェクトマネージャーのあかねさんと、デザイナーのしほさんにお話を聞きながら、BAUMが関わる渋谷キャストのブランディングの裏側を探っていきます。

 

 

渋谷キャストに関わり始めた初期から、現在までの関わりを教えてください。

あかねさん:関わり始めた時期は、渋谷キャストが開業する1年ちょっと前ですね。キャストは13F-16Fが住宅部分になっているんですけど、13Fはクリエイター同士が生活を共にしてお互いの活動を刺激し合うようなコレクティブハウスなんです。そうした場をつくるに向けて、空間や暮らし方、コミュニティの仕組みなどコンペティション形式でアイデアを募ることになり、「リブシブ賞(LIVE IN SHIBUYA AWARD)」というネーミングをはじめとしたクリエイティブ制作を担当したのが最初です。それからは、渋谷キャストが工事中のティザー段階に、街の人に向けたコミュニケーションとして「ものすごくクリエイティブな」という仮囲いを出したり、オープンに向けたビジュアルを作ったり、対外的な展開の部分を担当するようになりました。
いまはオウンドメディアの記事コンテンツを作成したり、館主催のイベントのクリエイティブ制作など、年間通して渋谷キャストのあり方、伝え方を考えています。

※現在までの関わりはこちらからご覧になれます。

 

渋谷には多くのビルがありますが、その中でも渋谷キャストの特徴は何ですか?

あかねさん:広場がしっかりとしたスペースと余白を持ってあることだと思います。キャストは渋谷駅から近い場所だけど、実は周りに中学校や幼稚園、裏側には住宅があって、割と生活圏として人が行き来しているエリア。なので、広場は地域の人に対しても開かれた場所になるように意識されています。ブランディングに関しても、クリエイターが集まっているという部分を発信するだけでなく、地域の人がクリエイターが働いている空気感に触れられるような場所として発信してきました。

 

2017年 SHIBUYA CAST オープニングイベントの写真

 

毎年広場を中心に開催されるイベント、「渋谷キャスト周年祭」や「WINTER CAST.」のクリエイティブ制作にも関わっています。数年にわたってクリエイティブを担当してきて、大切にしてきた部分はありますか?

しほさん:キャストにはクリエイターの肩書を持つ人が多くいるけど、それだけじゃなくて広場には東急ストアに牛乳を買いに来るおじいちゃんがいたり、犬の散歩をしてる人がいたり、ギャルがベンチで休んでいたり、老若男女を問わずにその場を活用しているので、そういう雰囲気も伝えたいというのは思っていました。例えば、このポスターは、犬の散歩や牛乳を買いにきてるおじいちゃんにも「こんなお祭りやっているんだ」と言いたくて作ったものです。描く対象が若者だと、興味を持つ人も若者になっちゃうけど、犬だと対象を絞らなくていい。

 


2019年 WINTER  CAST.のビジュアル

 

あかねさん:あとしほちゃんがデザイナーズマーケットに出店していたのもあるよね

しほさん:私が自分のブランド「OOKIIINU」として渋谷キャストで開催されているデザイナーズマーケットに出店した時に、犬の散歩をしている人がきて「これ犬のグッズなんだ〜」と興味をもってくれたんです。あと、それまでにも犬を連れている人を結構見ていました。そんな経験を踏まえて、犬のビジュアルを提案しました。あとよくみると、端の方には猫がいて。キャットストリートで働く方もガレージセールに出店されているので、関係者は猫、お客さんは犬という描き分けをしています。

 

犬のデザインの裏にそんな出来事があったことは知らなかったです。また「クリエイター向け」という渋谷キャストの印象とは裏腹に、”くる人を狭めない”ような工夫があることが意外でした。

あかねさん:渋谷キャストのイベントは開かれた場所であるとともに、都市におけるオープンスペースはどうあるべきかという実験性も持っていて、創造性が高かったり、アカデミックなアプローチの企画もあって。

しほさん:専門性のあることばを真正面からビジュアルに落とし込むと、デザインが抽象的になって、”こんなのあるんだ”という、とっかかりが生まれづらくなる。

あかねさん:そういう尖ったものを、どうオープンにしていくかという部分は考えました。各々の挑戦をリスペクトしつつ、その本質的な面白さをどう伝えるかを大切にしていますね。

 

2周年祭のイベントはマンガで表現

 

あかねさん:あとは、街中に掲出されて景観をつくっていくものなので、通りすがりの人はもちろん、自分たちも関わる人たちも直感的にわくわくできるアウトプットは心がけています。今年の春に制作した渋谷キャスト4周年祭のビジュアルは、いろいろな方が自分のキャップやパソコンにテープを貼って楽しんでくれて嬉しかったです。

 

(Photo: Yuka IKENOYA)

4周年祭で使用したビジュアル

 

2016年から、約5年間にわたって渋谷キャストのブランディングに関わっていますが、長期的に関わっているからこそ、できたことはありますか?

しほさん:渋谷キャストには、本当にいろんな人がいて、その人たちに「渋谷キャストってこんな場所だよね」というイメージを持ってもらえるようになった印象があります。

あかねさん:”こういう場所を目指していこう”という段階から、実際に今の光景を見ると、場所が育ってきていると感じます。夕方は広場のベンチがほぼが埋まっていることもあって。幼稚園帰りの子たちが遊んでたり、学生のカップルがお喋りしてたり、地元の公園感もありつつ、猛烈に仕事してる人がいたりする。渋谷キャストを表現するために、「WORK, LIVE, PLAY」というタグラインを作ったのですが、それが目に見える光景として、どういう人がいるのかイメージできるようになっています。そういった変化も経て、「どういう人に向けて」の「どういう人」の部分の具体的なイメージがついた状態でクリエイティブを考えられるようになりました。

 

広場に訪れる人が、その人なりに場所を活用している光景が生まれてるんですね。それは無意識的にでも、過ごしやすさをどこかで感じてもらえているからだと思うんですが、人が場に対して居心地の良さを感じるときに、ブランディングが影響していると感じることはありますか。

あかねさん:キャストで言うと、広場でさまざまな人が過ごしている様子を見ると、開かれた場所になっていると実感できますが、そういった印象は広場のデザインや運営方針などあらゆる要素の上で成り立っています。なので、「私たちが」と言えることは難しいけど、この前広場でのイベントの時に、通りすがりの若い子たちが「なんかやってんじゃん」「あそこたまにいい感じのやってるよ」といった会話をしていて、それは意外と良い捉えられ方だなと思いました。「たまにいい感じだよ」っていう認識は、この街に日頃いるからこその言葉に感じたんです。渋谷はぐるっと見渡しただけでもいろいろな情報が飛び込んでくる街なので、そうじゃないゆるく過ごせる場所があってもいいのかな、と。そうした俯瞰的な位置づけも考えながら、街全体が面白くなるといいなと思っています。

 

編集後記

さまざまなひとが行き交う「まち」と、相手にどう伝えるかを考える「ブランディング」はどう繋がっているんだろうか?そんな疑問点から今回のインタビューは始まりました。

ブランディングの役割として印象的だったのは「くるひとを狭めない」という、まちの人とのコミュニケーションです。おじいちゃんもギャルもクリエイターも、1つのポスターから、その場に参加できるきっかけを受け取れる。そのように、場に親しみをもってもらうためのコミュニケーションをビジュアルやネーミングの面から生み出していくことが、ブランディングの役割ではないかと思いました。日頃からいる人に、親しみをもってもらうことで培われる街の雰囲気は、さまざまな挑戦をするプレイヤーを生むきっかけにもなります。

1つの街で、人と場所のコミュニケーションがどのように生まれているのか、そんな視点を持ってまちを覗きつづけたいです。