「オッケーグルグル!」 AI市場が盛り上がり、音声アシスタント機能を起動させるコマンド「Ok, Google!」や「Alexa!」「Hey, Siri!」なんて言葉が耳に馴染み始めていた頃、我が家で父はいつも嬉しそうにこう唱えていた。 我が家にAIスピーカーなんて便利なものはない。あったとしても「グルグル」では機能しないだろうし、(なんか悔しいから)機能して欲しくない。しかし父はテレビでGoogleのCMを観るたびに、いつもニヤニヤしながらこちらを見て、また同じセリフを唱えるのだった。 私「お父さんさ、『Ok, Google!』で何ができるか知ってる?」 父「知ってるよ!天気とか聞くんでしょ!」 父がお気に入り (?)の「Ok, Google!」は、天気を聞くためだけのものではないし、AIスピーカーのみで発揮されるものでもない。スマートフォンでGoogle アプリを起動させれば、話しかけるだけで検索をしてくれる。少し前までわからないことは図書館で分厚い本を開くとか、物知りなおじさんに聞くとか、少々面倒な作業だったのに。なんとも便利な時代になったものだ。 Googleは検索エンジンの会社でありながら、メール、地図、翻訳、スケジュール管理など、実に多様なサービスを提供している。どうしてこんなにも多様なサービスを提供できるのか。そういえば、Googleで検索をする機会はあっても、Googleについて検索したことがないことに気がついた… BAUMにインターンで通いはじめて3ヶ月、様々な案件に関わらせてもらって改めて、デザインやブランディングの可能性を感じていた。ブランディングという言葉の認識も、なせる技も多様化してきている時代、新たな価値を生み出すためには先人の知恵をもっと学びたいと考えていた。 今や世界中で、知らない人はほとんどいないのではないかというくらい市民権を得ているGoogleにこそ、最強のブランディングの秘密が隠されているのではないだろうか。期待に胸を膨らませながら、Googleについて少し調べてみることにした。 Googleは創設してまだ20年ちょっとの企業だが、全世界の検索エンジンシェアの約9割を占めているそう。パソコンだったらMacかWindows、ケータイのキャリアならdocomo、au、Softbankとか、世の中には色々な選択肢があるのだから、検索エンジンだってGoogleだけではないはずだ。それなのにどうしてみんなGoogleを使うのか。その秘密はGoogleの企業姿勢から見ることができそうだ。 “Don’t be evil.” 「邪悪にならない」 これはGoogle創設時からのモットーであり、今でも企業文化に深く根付いている言葉。邪悪という言葉を聞くと、「そりゃそうだ、悪さをしてお金稼ぎなんかしていない」と思う人もいるかもしれないが…Googleの考える邪悪とは、「利益のことばかり考えて、ユーザーを無視すること」だという。 創設者のラリー・ペイジとサーゲイ・ブリンは、常にユーザー目線に立ってものごとを考えてきた。そのため、広告収入の為に利便性を無視して検索ページに広告を打つことや、金銭と引き換えに検索結果の順位を操作してユーザーを困惑させる事をひどく嫌った。 設立当初からこの”Don’t be evil.”と、「Googleが掲げる10の事実」(掲げる目標が事実である事を願い、常にこの通りであるように努めるための宣言)を掲げ、随時これらを見直し、事実に変わりがないかを確認しながら技術の向上や新たな挑戦をしてきたようだ。 「悪事を働かなくてもお金は稼げる。」 純粋に利益を求める事を「悪事」と表現するのは少し大げさな気もするが、社内の目標や収益ではなく、とにかくユーザーの視点を第一にものづくりをすることで「結果は自ずとついてくる」とも語られている。 設立当初から、良きビジネスマンより良きエンジニアを求めて採用活動を行ってきたGoogle。優秀な技術者たちによって生み出される洗練された機能は、人から人へと口コミで広がっていった。設立から数年間で研究機関のみならず、シリコンバレーの投資家たちの注目も集め、瞬く間にシェアを拡大していった。そんな企業の言うことだと思うと、「結果は自ずとついてくる」もなんとも説得力のある言葉になる。 ブランドをブランドたらしめるもの 私たちが何かを選ぶとき思考を左右する要因には、質や量や金額といった目に見えるものと、匂いや味や音といった感覚的なものがある。それらは体験の積み重ねで、より明確な見解になっていくと思う。 例えば、いろんな店のチラシを見ていて気がつく「ここのスーパーの卵は安い!」とか、ちょっと高いシャンプーを使った時の「なんかいつもよりサラサラする!」とか。必ずしも商品やサービスの体験をしていなくても、テレビCMを観ていて抱く印象や、商品やサービスを利用している人から聞く評価すら、私たちの体験として蓄積される。こういった体験の積み重ねで、自分の中に対象への評価を作り出していく。 このなんとも繊細で曖昧で、人によって千差万別な評価になるものを「ブランド体験」と呼ぶことができる。 「ブランド」という言葉を使うと「高級なバック」とか「美味しいお肉」なんて、ちょっと良いものを想像してしまいがちだが…ブランドとはそもそも、物やサービスの差別化を図る要素のことだ。素材や味や使い心地、パッケージやネーミングやプロモーションなど、商品やサービスの「他者との違い」を構成する要素ひとつひとつがブランドであり、それらの要素を一体感をもたせながら構築していく行為をブランディングという。 話が少し逸れてしまったが、これをGoogleに置き換えるとわかりやすい。私たちがGoogleを選ぶ理由はまさに、この「ブランド体験」の蓄積の結果なのだ。 無駄な広告の出ないシンプルな検索窓、検索結果を出すスピード感と量、金銭で操作されていない検索結果の表示や多言語に対応した翻訳機能。誰かに売り込まれたわけでもないが、なんとなく使い始めたらこれしか使えなくなる操作性はまさに「良質なブランド体験の積み重ね」なのだろう。 「質に自信があれば、ブランディングなんて必要ない」 この言葉からもGoogleの選ばれる理由がよくわかる。 近年巷では「ブランディング」という言葉を多用して、ロゴを変えたりパッケージやWebページを変えたりと、外面的な変化ばかり求める傾向にある。確かに一時的な話題性は得られるかもしれないが、その反面、中身が伴わないことや長続きしないケースも多い。対してGoogleはいわゆる外面的なブランディング、派手な広告や無駄なプロモーションをしていない。 少し前、Googleはロゴを変更した。「ロゴ変えてるじゃん!」と思ったが、調べてみると「旧ロゴは低帯域で表示が崩れる事があった。新ロゴはベクター形式にする事でフォントが崩れにくく、データ量も1万4000バイトから305バイトにまで縮まった。より早く、美しくなった。」との事。ただのロゴ変更かと思いきや、これまたユーザーの使いやすさを考えてのことだったようだ。 近年見かけるようになったテレビCMも、ネットから遠い40代〜60代の潜在的なターゲットに向けて「こんなに簡単に、それに楽しく!検索とかできますよ!」と伝えるための施策だという。言われてみれば、ネット中心の生活をしている若者が使うSNSやWebページにはGoogleの広告は打たれていない。明確なターゲットに向けてしっかりとアプローチされているということだ。 こういった細やかな仕事の成果は「世界中の情報を整理して、万人に価値のあるものとして使えるようにする」という企業ミッションを、着実に達成している証拠にもなる。ユーザー視点に立ち「質」を追求する姿勢そのものが、Googleらしさを作り出し、Googleのブランド価値を生み出していく。 そうしてまた世界中の人たちが、「Googleを使えば、世界とつながれる。探しているものの答えを見つけてくれる。」といったブランド体験を積み重ねていくのだろう。 出典: Google「Googleについて」 https://about.google/intl/ja/ (画像、文章) Google「Googleが掲げる10のこと』 https://www.google.com/about/philosophy.html GigaziNE 「Googleがデザインを一新、こだわり抜いたデザインは何が違うの?」 https://gigazine.net/news/20150902-google-logo-evolving/ (アニメーションgif) 参考: デービット・アーカー著 阿久津聡訳 「ブランド論 無形の差別化を作る20の基本原則」 ダイヤモンド出版