グレイプーポンを持ってますか? 1981年、フランスのティエリー・ド・モンコルジュは賭けをした。パリ・ダカールラリーをロールスロイスで走破できるのか。 面白い人もいるものだと思って調べてみるとフランス語のみならず英語でもいろいろな記事がでてくる。もちろんロールスロイスにオフロード走破力はないから改造を施す。トヨタ・ランドクルーザーのギアボックスにシボレーの5.7リッターV8エンジン。フレームも組み直して中身は別物に。その中にこんな一節がでてくる。「ミニバーやGrey Pouponなどの豪華な装備は外して」。Grey Poupon。ああ、なんだっけ。聞いたことのある音。でもパッと浮かばない。 19世紀にフランスで誕生したマスタードのGrey Pouponは戦後にアメリカに上陸した。ヒットのきっかけになったのはこのCM。 高級感を打ち出すためにつくったユーモラスなCM。ロールスロイスの後部座席で食事をする紳士がバーからGrey Pouponを取り出す。隣にとまったロールスロイスの紳士が “Pardon me, do you have any Grey Poupon?” ときく。これがGrey Pouponがティエリー・ド・モンコルジュのロールスロイス記事に引用された所以だ。 そこから “Pardon me, do you have any Grey Poupon?” を調べてみるとこんな記事がでてくる。 How Grey Poupon became hip-hop’s favorite condiment カニエ・ウェストは2016年にこんな一説をうたった。 Yeezy, Yeezy, Yeezy, this is pure luxury / I give ‘em Grey Poupon on a DJ Mustard, ah!” 遡ると1992年にDas EFXに高速でうたったこの一説が最初だそうだ。 “He’s the don, have you seen my Grey Poupon? Bust this, we roll more spliffs than Cheech and Chong.” Das EFXから’yeにいたるまでを上の記事がグラフにしてる。 安いスーパーなら1〜2ドルで買えるマスタードの中でも瓶入りのGrey Pouponは5ドル。「小さな贅沢」の比喩として共感を生みやすいし、子音がG-P-Pでグルーヴィーで母音の構成も韻がつくりやすい。 英文コピーを書くときによくつかうRhymezoneで検索してみるとこれはこれは、とにかくたくさん出てくる。 パロディとか相乗りしたCMも次々でてくる。うまいのも、下品なのも。僕が好きだったのはサブウェイの軽やかなこのCM。 Grey Pouponからはじまった文化を巡るだけで一晩は愉しめそうだ。