「買わないでください」のその先へ

ハロウィーンに続いてブラックフライデーが日本でのブームになりつつある。今年からアマゾンが大々的にテレビCMをうったことで一般への言葉の定着が見られ、スポーツブランドやホームセンターなどがアマゾンに続いてセールをはじめた。米国ではクリスマスと並び家族で集まってすごすサンクスギビング(感謝祭)の翌日のイベント。宗教的な意義はなく、生活文化をふまえたマーケティング的な成功によって定着した。米国以外で感謝祭的な祝日があるのは日本とドイツだそう。秋の祝日が多すぎてひとつひとつの祝日の由来が風化しつつあるものの、勤労感謝の日がそれにあたるということか、日本のアマゾンや小売店は本国よりも1週間はやく実施した。他のブランドは米国と同じ今日金曜日から開始したりしているので、これはなんとなく収斂されていきそうだ。

ブラックフライデーで大きく株をあげたのはシアトルに本拠地を置くアウトドア品のお店、REIだ。株をあげたといってもREIは株主のいない組合形式の経営にこだわっていて、これが独特のスタッフ文化をつくっている。近所のアウトドアの達人みたいなおじさんが多く働いている。そのREIが5年前に掲げたキャンペーンが「OPT OUTSIDE」。商機であるブラックフライデーに全店を閉めるので、みんなアウトドアで遊ぼうというメッセージはアウトドアファン層の強烈な支持を呼んだ。当時すでに社会背景としてブラックフライデーの騒乱は毎年問題になっていたからニュースでも好意的に報じられた。これには伏線というか下敷きがあって、Patagoniaが2011年のブラックフライデーにニューヨーク・タイムズにだした広告「Don’t Buy This Jacket」だ。

 

この強いメッセージには大きな反響があった。REIはこの流れにうまい形で乗っかったのだ。
アウトドアブランドのほとんどの製品は石油から作ったナイロンやプラスチックでできている。自然環境をたのしむためにあるはずなのに、環境負荷が高い。うまれながらに原罪を背負っている。このことにしっかり眼を向けて、戦略的にブランドを強くした。2011年当時のパタゴニアは広告の1週間後、こんなメッセージをブログに添えている。

 

 

私たちが作るすべてのものはこの地球から、戻すことのできない何かを奪っています。パタゴニアのウェアのひとつひとつが、たとえそれがオーガニックであれリサイクル素材を使ったものであれ、その重さに対して何倍もの温室ガスを排出し、最低でも半分の廃棄物を生み、地球上のあらゆる場所でだんだんと希少になっていく淡水を大量に使用しているのです。
ニューヨーク・タイムス紙に広告を掲載した理由は、それが国内で最も重要な新聞であり、「記録の新聞」として知られているからです。私たちはこの広告をホリデーのショッピングシーズンの開幕日である「ブラックフライデー」に掲載しました。ブラックフライデーに購買を控えることを求めている会社は、この国でも私たちだけでしょう。
けれども、私たちは物を作り、売るビジネスをしています。私たちの給料はそれに依存しています。そればかりか私たちのビジネスは成長しており、新しい直営店をオープンさせ、カタログの発行部数も増えています。私たちを偽善者だと呼ぶお客様にはどう答えたらよいのでしょう。
「ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する」というのが私たちのミッションの一部です。

 

 

8年後の2019年。
この8年の間に敢えてブラックフライデーセールをして全売上を環境活動に寄付したりと活動してきたパタゴニア。シーズンに入って発表したのは中古ジャケットのリメイク品の販売だ。これまでもリサイクル品やアップサイクル品の販売に力を入れてきたが、今回の商品は中古である原型がしっかり残っている。プロダクトをもって「(新しいものを)買わないでください」を伝えようとしている。

 

REIも「お買い得以上のこと」と銘打って中古品の販売に力をいれる。
OPT OUTSIDEのその先として、「OPT TO ACT」もスタートした。社会貢献活動を奨励するプロジェクトだ。

 

ところで米国の中古アウトドアウェアというのは超玉石混交なのだが、面白いお店が多い。オレゴンのお気に入りのお店では会計のときに掘り出し物について褒めたたえてくれたり、古いものについては薀蓄を披露してくれたりする。中古品店が比較的しっかり生き残っているのも、クレイグスリストと並んでメルカリが苦戦する背景だと思う。

ブランディングの仕事をしているとたびたび事例にあがるのがパタゴニア。でもアウトドアに興味のない人や若い人にきいてみると、他のブランドとの違いはあまり認識されていない。フリースが高いブランドとかそんな印象だそう。本国ほど強いブランディングをしていないからなのかもしれないし、アウトドアウェアを取り巻く社会背景も大きく異なることもあるはずだ。

プラスチックの環境負荷についての問題が一気に広まった2019年。2020年代は反プラスチックの時代になりそうだ。逆境を乗り越えてきたアメリカのアウトドアブランドがどう動いていくのか、わくわくしているし、いつか彼らに挑戦できるような仕事をしたいと思う。