コロナ禍のデンマークの公共から探る「ニューノーマル」へのヒント

デンマークの公共空間と公共生活はコロナでどう変化したのか?

デンマークの都市コンサルタントGehlは、建築関係の財団Realdania、コペンハーゲン市の支援を受け、デンマーク国内4都市60人の調査者と協働して、コロナ禍の人々の日常生活に公共空間が果たす役割を調査した。公開されたレポートで紹介されている10の調査結果をまとめる。

 

調査の概要

・調査した都市: Horsens, Helsingør, Svendborg, Copenhagen

・調査日:2020年4月3日・4日

・調査内容:公共空間を日常生活の中で人々がどのように使っているか

・手法:Gehlのデジタルプラットフォームを用いて、60人の調査者がデータを収集

 

Gehlは今回のような調査を”Snapshot”と呼んでいる。調査で集めているデータは、人々の生活の第一印象に近いものだからだ。都市計画では近年ビッグデータを用いて、道路整備や緑の設置といった方法で都市機能の改善に取り組んでいる。しかし人々の生活の質を理解し向上させるには、人そのものの行動や空間利用をデータ化して観察する必要がある。これがPSPL (Public Space Public Life:公共空間と公共生活) プラットフォームを用いて、Gehlが取り組んでいることである。

 

10の調査結果

1.都市中心部の商業地区での活動は大きく減少している

コロナ禍で街に人手が減ったことは明らかだが、都市の中心部のショッピングストリートの歩行者は、Horsensでコロナ以前と比べて96%減少、コペンハーゲンでは80%減少し、特に大きな影響を受けていた。

 

2.都市は以前よりも、レクリエーション、遊び、エクササイズのために使われている

全ての都市の公共空間で、遊びとエクササイズが増加していた。特に港など、もともとレクリエーション機能のある場所での活動が増えている。また都市中心部の石畳の広場など、普段遊びに使われない場所も活用されるようになった。

 

3.公共空間は変わらず利用されているが、歩行者の通行量は大きく減少した

公共空間で過ごす人の数や活動量はそれほど変化していないが、その過ごし方は大きく変化した。以前はカフェで着席する割合65%で最大だったのが大きく減少して5%になり、ベンチなどに座ったりエクササイズをする人の割合が増えた。遊びとエクササイズの活動量は以前の10倍ほどになっている。

また、コペンハーゲン市の広場での活動量は5割減に留まった一方で、人が地点間を歩いて移動する量は8割減少していた。公共空間の使用自体よりも、移動の減少が大きいことがわかる。

 

4.公園などのローカルな公共空間は、以前に増して人が集まっている

普段から人を集める人気の公園を訪れる人は、コロナ以前よりもかなり多くなった。ローカルに人気の公園での人手を見ると、利用者の年齢層は広く、広場の利用者は通常の2倍にもなり住む地域の公共空間の重要性が高まっているとわかる。また、利用者数が多くなる時間のピークは、コロナ以前は午前と午後2回あったが、コロナ禍では午前のピークが無くなり、午後のピークが大きく長くなっていた。

 

5.人が集まる場所では、ソーシャルディスタンスを守るのが難しい

人々は身体的距離を保とうとしているものの、人の集まる公園などでは難しくなっていた。商店の列で2mを目印で示すなどのガイドが、人々が距離を取る行動に効果的だった。一方で露店の花屋で花を見ているときなど、自発的に行動しているときには距離感が普段通りに戻ってしまっていた。

 

6.屋外に出ることや日光を浴びることの重要性が高まっている

新鮮な空気を吸ったり、太陽のもとで過ごすことの大切さは通常と変わりない。いい天気のとき外で心地よく過ごすことを求めて、緑のある場所や水辺に人が集まっていた。

 

7.新しいアクティビティや、新しい都市生活の形が生まれている

コペンハーゲン市中心部では、広場でスケートボードの練習をする人、人通りの少なくなった場所で自転車に乗る人、広場で楽器演奏をする楽団など、今までにない活動が見られるようになった。

 

8.以前より多くの子どもやお年寄りが都市空間を使用している

公共空間を使う人の割合は、コロナ禍では14歳以下の子どもたちや65歳以上のお年寄りが増えた。

 

9.個人やグループによって公共空間での過ごし方は異なる

男性よりも女性の方が多く公共空間に見られ、特女性は2人でいる場合が多かった。それに対し男性は、1人でいるか4人以上のグループでいることが多かった。

公共空間にいる人やグループは多様で、様々なコロナ禍での変化が見られる。例えば、コペンハーゲン市の中心広場では、24歳以下の若者の割合がコロナ以前の1割から5割まで増えた。また、電子機器を使用している人が大きく減って、会話をしている人が大きく増えた。この会話の増加は、店舗が営業再開してからも続いている。

 

10.全体としての移動は減少したが、都市外縁部では歩行者の移動が増えている

都市中心部では大きく歩行者が減った一方で、外側では歩行者が増えていた。さらに車での交通量が減った一方、徒歩と自転車が欠かせない移動手段となっている。特に地域の主要な通りでの歩行者の減少は、単に移動のために使われるような通りより減少が少ないことから、地域のメインストリートがコミュニティ形成に重要であることが示される。

 

なおアップル社が収集した歩行者データを見ると、大まかな歩行者の減少を概観することはできるが、今回Gehlが示したような細かなニュアンスを見て取ることができない。グローバルな動向を見るためにビックデータは有効だが、人々に実際何が置きているか知るためには「目のレベル」でシックデータ(Thick Data:分厚いデータ)を集めることが重要だ。

 

調査結果から考える「新しい日常」

この調査を通してGehlが考えているのは、この危機をどう未来をよりよくデザインするために活用するか、ということだ。

アメリカで9.11テロが起きた後、航空機移動でのセキュリティが非常に厳重になったように、パンデミックや経済危機や紛争といった大きな出来事は、長期的に物事のあり方を変えてしまう。コロナが収束しても、元の生活に戻るわけではない。だからこそ、未来の持続可能な公共生活を今考えることが重要なのだ。

 

例えば都市の中心部に、商業的な魅力がなかったとして、どのような価値を提供できるか?スモールビジネスや非商業的活動が都市の活気を高めるにはどうしたらいいのか?といったことだ。これは冬の日や夕方など、通常時に人手が減るときにも考えるべきことだ。

またより良くローカルな公共空間をデザインするにはどうしたらいいのか?良いローカルな公共空間とはそもそも何なのか?といったことも、今回の人手の変化と場所の構成要素などを見ることで考えられる。

コロナ後に店舗が再開してから、都心部の人手のピークが分散して平日お昼前後の混雑が解消された。また、SNSの感情分析では、人々の「希望」の度合いは減っているものの、「退屈」や「孤独」も減少している。このようにコロナ後の新しい日常に向かう都市の在り方を考えることが大切だ。

 

Gehlは今回の調査データを、アセットとしてウェブページに公開して活用を呼びかけている。コロナ後の人々の暮らしのデザインを考えるためには、リアルな日常を捉えたデータが大いに役立つはずだ。

 

参考

Gehl. (2020). Public Space & Public Life during COVID-19, Retrieved 2020/7/8, from https://covid19.gehlpeople.com/

Gehl. (2020). Public Space & Public Life during COVID-19, Retrieved 2020/7/8, from

 https://covid19.gehlpeople.com/files/report.pdf

Youtube. (2020/6/24). BLOXHUB Debates: Pandemic-proof cities – new paradigm for urban resilience or merely an overreaction, Retrieved 2020/7/8, from https://www.youtube.com/watch?v=dugdYPijF6o