デンマークの公共を革新するRealdania 保全された歴史的まちなみ、驚きのつまった最新現代建築。 デンマークから建物を想像したとしても、陰の立役者Realdania(リアルダニア)を知っている人は少ないかもしれません。 そもそも建築物を保全したり建築したりするには、当然莫大なお金がかかります。そこで建築事業の主体だけでなく、出資者や行政といったパートナーからお金を集めて事業が行われることもしばしばあるわけです。 デンマークの3600を超えるプロジェクトで、このように時に主体として事業を行い、時に資金援助を行ってきたのが、民間組織Realdania。大都市から村まで様々な場所で、建物の建設・建造物の保護・都市開発・プランニングなど幅広く、建築環境にまつわるプロジェクトの支援を行っています。 幸せなデンマークに寄り添う建築 デンマーク第2の都市Aarhusのウォーターフロント再開発。人々と都市・水とを近くする開発を行った 人々の暮らす場所にあるのが建物。その建物を通して人々の生活をよりよくしたいということが、Realdaniaのアイデアです。 実際にデンマークは、2019年に幸福度ランキングで2位を獲得するなど人々の幸せな暮らしを実現しています。公共空間の活用や、イノベーティブな建築デザインは世界で話題になるものも少なくありません。日常を丁寧に暮らすデンマーク人の幸せの要素として、優れた都市空間や建築は欠かせないものとなっています。 Realdaniaは都市・建物・建築遺産を中心に、デンマークにおける建築や建築環境に関するプロジェクトを支援してきました。その数は、2000年の創立から2019年までに3,675件に及びます。 支援するのは、コペンハーゲンのような都市でのプロジェクトから、小さな町、村に及ぶまで様々な地域のプロジェクト。また携わる手法として、新しい建物を建てたり公共空間の開発を行ったりといった「作る事業」もあれば、歴史的建築物の補修やリノベーションといった「守る事業」、都市の持続可能性に着目した調査研究やパイロット事業の実施といった「描く事業」など、その方法や規模は様々です。それに伴い政府省庁や自治体、大企業、中小企業、地域のコミュニティなど多様なパートナーと協働しています。 あれもこれもRealdaniaBLOX BLOXを上から撮影した写真。海からすぐの場所に建つユニークなデザインの施設。 首都コペンハーゲン中心部のウォーターフロントに作られた、ガラスの箱を積み重ねたようなデザインの複合施設。2018年に オープンし、建築・デザイン・人々が出会う場としての機能など、様々な側面が注目されました。 内部には、デンマーク建築センター(DAC)、 オフィス、展示 スペース、カフェや22戸の住宅 、屋外 の広々としたフリースペースや、地下の駐車 スペースなど生活・仕事・体 験といった様々な機能を備えています。 BLOXはRealdaniaが資金提供を行い、Realdaniaの子会社であるRealdania By &Bygが建築・所有しています。ランドマークとして機能するだけでなく、サステナブルな都市開の良い例となるように構想がされました。2011年に作成された構想段階のアニメーション動画にも、都市の中でBLOXが期待する役割が描かれています。 海面上昇に備える7つのプロジェクト 多くの大都市が海辺にあるデンマークでは、将来的に海面上昇が大きな問題となると考えられています。一方でウォーターフロントエリアの開発は、各地で進んでいます。そこで都市として海面上昇にどう 備えるか、建築以外にも様々な対処方法を自治体が検討しています。 Realdaniaは省庁と連携して、イノベーティブで効果の見込まれる7つのプロジェクトに対し資金援助を行いました。コペンハーゲン市の災害対策における意思決定プロセスの構築や、Middelfart市の沿岸の公共空間を開発するプロジェクトが含まれています。 Women’s refuge Dannerhuset 様々な 理由で避難を必要とする女性を、保護するシェルターの改築もRealdaniaは手がけました。 共用ではない個人のキッチンとバスルームを各部屋に設けたり、共用部分を設 備や暖房等をより充実させることで、より利用する人々が快適に暮らせるようにしています。また、古くて荘厳なエントランスも外から 見て開 放的でありながらも、避難所としてきちんと閉じられた空間となるよう再建しました。 高齢者コミュニティの強化 高齢者の孤独感 を減らしてよりよく暮らしてもらうため、高齢者のコミュニティを作り育てるためのプロジェクトもRealdaniaは行っています。データベースの構築や、民間・公共の住宅セクターと連携したプログラムの実施などを通して、マーケットがもっとこの分野への投資を進めるように働きかける役割も担っています。 民主主義で運用する組織の内側 Aarfusの名所、美術館ARoSの屋上にある、虹色の中を歩ける巨大リング Realdaniaは165,000人が メンバー、職人として300人ほどが働く組織です。なんらかの不動産を所有している人(個人、企業・団体の担当者など)であれば誰でも無料で会員になることができ、この人数は総人口581万人(2019年)の 約3%にあたります。会員は、建築環境にまつわるレクチャーやディスカッションに参加 できたり、Realdaniaが携わった施設の入場料割引などの特典を受けることができます。 取締役会11名は、研究者・建築会社の社長・建築関連の法律家 ・自治体の長などで構成。取締役会役員は会員による選挙で選ばれるという、デンマークらしい民主主義的な仕組みを重視しています。 この「組織」が果たしている役割としては建築保存協会、建築財団、不動産会社といったところでしょうか。(法律上は非営利の財団ではなく、営利組織のようです) 組織は150年以上前に始まった、デンマークの住宅 ローン事業に端を発し、不動産のファイナンスを通して企業と人々をつないできたことに起源 があります。設立した事業会社Kreditforeningen Danmarkを2000年に大手銀行Dansk Bankに売却 。残った資産約1650億円をすべて非営利事業のために用いることを決め、現在のRealdaniaが誕生しました。このときの資産を元手に投資を行い、運用利益を建築環境への支援に用いています。投資先や、支援をより多く行うため投資利益を最大 化しリスクを最低化 するための指針についても、公式サイトで細かく紹介されています。この結果 、2000年の設立以降、支援した金額は1兆2千億円にも及びます。 Realdaniaと似た機能をもつ組織として挙げられるのは、イギリスのNational Trustです Realdania・National Trust ウェブサイトをもとに作成 イギリス最大の会員数を持つ慈善団 体で、 後世に残すべき自然や建築を守る取り組みを行っています。施設や地域の保全を慈善 的に行うという大まかな方向性としては共通していますが、活動の資金 源や活 動主体、 会員制 度には 違いがあります。National Trustの場合は、 会員が支払う会費 が最も大きな収入源 であり、約65,000人の ボランティアが500以上の役 割で活 躍している、市民の力で大きな事業と組織を作り上げている 団体であると言えます。その性格と比べるとRealdaniaは、会員になれる人が限られていますし、事業は専門性が高いものとなっています。 「国や地域を良くする非営利組織」は本当? Realdaniaの代表的な批評家Kristian Kristiansenは、 ・Realdaniaは本当に 非営利団体と 言えるのか。事業は団体自 身に利するビジネスと言えるのではないか。 ・Realdaniaが携わった建築物は、本当に国や都市に貢献しているのか。 ・保有資産に対し、役員や職員に支払う賃金が多すぎるのではないか。 ・Realdaniaの保 有資産が減少しているのは、事業・団体運営にかかるお金の使い方に問題があるからではないか。 といった点を批判しています。 Realdaniaは新しい建物を建築し所有したり、施設を購入して貸し出すといった事業を行っています。これらの事業は商業的なものであり、ビジネスなのではないかというのが彼の主張です。 例えば事例で取り上げたBLOXは、Realdaniaが所有し子会社が施工を担当し、コペンハーゲン中心部にできた巨大でユニークなランドマークとして、組織の存在感を表しています。しかし、運営コストについては批判的な意見もあります。 彼がメディアに投稿した記事に対して、Readania役員のJesper Nygårdは、商業目的のファンドではなく非営利で慈善目的の組織を選択してきたRealdaniaの歴史や、自治体などの公共セクター・地域コミュニティと連携したプロジェクトを展開して、あくまで人々の助けとなるために取り組んできたことを主張して反論しました。 建築を通して人々の未来をつくる 多様な民族が暮らす地域の公園superkilen。新たな魅力とアイデンティティを生み出した Realdaniaが設定している3つのゴールがこちらです。 We are here for present and future generations We promote sustainable development We promote new knowledge and innovation 私たちは今と未来の世代のためにここにいる私たちは持続可能な開発を促進する私たちは新しい知識とイノベーションを促進する将来 世代や都市やコミュニティの持続といった、長期 的な 未来 を描きながら取り組んでいることがわかります。このような意識 があるからこそ、大規模プロジェクトだけでなく地域のローカル な事業を支援したり、気候変動へ の取り組みを進めるといった分野 での活動が生まれるのでしょう。 Realdaniaのプロジェクトだけでなく、未来 志向で建築環境から幸せな暮らしを作るというマインド自体にも、見習うところがありそうです。 (インターン 黒住) 出典 BLOX https://www.blox.dk/english/ Climate Harbour Middelfart, Klima Byen. http://www.klima-byen.dk/the%20climate%20city/the-climate-harbour-international-architecture-exhibition National Trust HP https://www.nationaltrust.org.uk/ Realdania HP https://www.realdania.org/ Realdaniakritik.dk (Blog),Kristian Kristiansen (in Danish). Realdaniakritik.dk – en kritisk blog om Realdania, byer og byggeri Former Associate Professor: Realdania rejects everything, even though equity isdwindling, altinget, Kristian Kristiansen, 5/4/2018 (in Danish). https://www.altinget.dk/civilsamfund/artikel/forfatter-realdania-afviser-alt-selvom-egenkapitalen-svinder Head of philanthropic fund: We don’t just send a check, AMWATCH, KarenManniche, 11/12/2017. https://amwatch.dk/AMNews/Fund_Management/article10081150.ece Realdania – for almost $ 20 billion public utility, MAFASINET KBH, Jesper Nygård,31/1/2020 (in Danish). https://www.magasinetkbh.dk/opinion/nygaard-realdania-20-mia-almennytte Urban jumble: the building that wants to upset the calm of Copenhagen, TheGuardian, Oliver Wainwright, 1/5/2018.https://www.theguardian.com/artanddesign/2018/may/01/blox-danish-architecture-centre-copenhagen Use the billions of Realdania to build affordable housing, MAFASINET KBH,Kristian Kristiansen, 29/1/2020 (in Danish). https://www.magasinetkbh.dk/opinion/brug-realdanias-milliarder-til-billige-boliger