都市の地面を有機的に耕すグランドレベルの物語

田中元子さんは、周囲が心配になるくらい大胆な何かをはじめるとき、「私は失敗したことがない」という。それはテレビドラマの女医のようなことではなくて、何か成果がでるまで、納得がいくまではしっかり続けることの証左だと思う。

とことん Doer。行動にうつすのが、早い。それでいてThinkerでもある。都市や建築への燃えるようなパッションにJane Jacobsを重ねる人もあると思う。Janeが何度もデモを扇動して逮捕されたのに対して、元子さんはいつもたのしみながらオルタナティブを提示する。ふるまい屋台もそうだし、最近はじめた喫茶ランドリーも、彼女の会社、グランドレベルもそうだ。商いの損得の算段を越えて、信じる道を突き進む。

会社としてのグランドレベルを旗揚げされたとき、事業の発表会の挨拶に招いていただいた。壇上にたつと、見渡す限り建築や都市の有名な人ばかり。歴々をして、なんだか気になる存在。何を話そうものか、戸惑ったのを覚えてる。グランドレベルのロゴは弊社のベランダで打ち合わせをして出来上がった。まだ暑い時期だったと思うけど、路上とはいかずとも青空の下で打ち合わせをしたかったし、僕のお気に入りの空間で話をしたかった。できたロゴはエレベーターの上下ボタンを90度うごかして左右にしたものだ。素直であり、しっかり戦略的な元子さんらしい意思。

新しい本「 マイパブリックとグランドレベル ─今日からはじめるまちづくり 」はそんな元子さんの思いとオルタナティブな挑戦の記録。とことん無機を目指した20世紀の都市と反対に、今、街は有機をもとめてる。有機的な人の集いを耕そうとして、(それだけでも大きな進歩なのだけど)多くはそこに失敗に向かう。有機が発酵に向かわず、腐敗してしまうなんて言う人もいた。僕は失敗は成功のもとだと思うけども。元子さんたちは善玉菌のように、いい醸し方を知っていて、だからいつも耳目をしっかり集める。都市の地面を有機的に耕す物語をぜひこの本を読んで知ってほしいと思います。